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100年以上続く鶴見の老舗酒屋「遠州屋酒店」

2026.01.27

鶴見で長く暮らしていると、ふとした日常の中で「変わらず続いているもの」に心惹かれる瞬間があります。今回訪れたのは、100年以上続く老舗酒屋「遠州屋(えんしゅうや)酒店」さん。

現在のご主人は二代目で、この街とともにお店を守り続けてきました。
日本酒の品揃えは豊富ですが、私がこの酒屋さんに惹かれた理由は、品揃えの多さや珍しさではありません。

店主が口にするのは、「10年放っておいてもおいしく飲める酒を厳選している」という言葉。それは特別な一本を誇るためではなく、暮らしの中で自然に楽しめるお酒であるかどうか、という基準でした。

その言葉には、お酒に精通する店主の「長く続くお店の姿勢」が凝縮されているように感じました。

「保存が難しくない」酒を選ぶ理由

日本酒が冷蔵庫に陳列されていると、購入後も冷蔵保管だったり、開封後は時間が経つと味が落ちてしまう……そんなイメージを持っている方も多いのではないでしょうか。

今は要冷蔵が前提のお酒も多い時代ですが、遠州屋さんのお酒選びの軸は少し違います。
店主が大切にしているのは、「保存が難しくないこと」。
この言葉には、二つの意味があるように感じました。

一つは扱いやすさという実用面。
もう一つは、日本酒が本来持っていた「暮らしに根ざした在り方」です。

日本酒には、長い歴史の中で育まれてきた造り方があると店主は言います。
冷蔵設備が当たり前ではなかった時代でも、人々は日本酒と共に暮らしてきました。

店主が選ぶのは、「時間の経過も含めて完成していく」そんな考え方を持つお酒です。

開栓してからも、日を追うごとに少しずつ表情を変えていく。
「早く飲み切るのではなく、育てるように楽しむ」その言葉がとても印象に残りました。

実際、10年という時間を経てもなお、まろやかでおいしさを保つ日本酒があると聞き、正直驚きました。日本酒は繊細なもの、というイメージを持っていたからです。

「時間に委ねられる強さを持つ」お酒があることを知り、私自身も日本酒を育ててみたいと思うようになりました。

蔵元との関係がつくる「良心的な酒」

遠州屋さんで扱う日本酒の背景には、手間や時間を惜しまない蔵元さんとの関係があります。

大量に造ることよりも、どう造るかを大切にする。そんな蔵元さんのお酒を選び続けることが、店主にとっての「良心的な酒」なのだと感じました。

お酒には、さまざまな造り方や楽しみ方があります。その中で私は、店主が選ぶ日本酒にどこか安心感を覚えました。そして同時に、「もっと知りたい」という好奇心が自然と湧いてきたのです。

日本酒と発酵、そして先人の知恵

健康志向が高まる中で、発酵食品が注目されていますが、日本酒もまた発酵酒のひとつです。店主が教えてくれたのは、「麹歩合がきちんと取れているお酒は、品質が保たれて何年もおいしく飲める」ということ。

冒頭で聞いた「10年放っておいてもおいしく飲める酒」という言葉の背景には、麹の存在がありました。麹は、日本酒造りの過程で酒粕となり、コストがかかる部分でもあります。それでもそこを削らず、麹の力をしっかり生かすことが、日本酒の土台になるのだそうです。

2024年には、日本酒や焼酎、泡盛などの「伝統的酒造り」が無形文化遺産として登録されました。米のでんぷんを糖に変えるために麹を使う工程は、日本酒ならではの特徴なのだそうです。

先人の知恵を、今も受け継いでいる酒造のお酒がここに集まっている。そう思うと、とてもワクワクします。

日本酒初心者や女性に向けた、やさしい選び方

「これから日本酒を飲んでみたい」という方にはまず、“飲みやすいもの”を勧めているそうです。麹歩合がきちんとしているお酒は、味わいが穏やかで、深酒しても翌日に残りにくいと感じる方が多いとのことです。

贈り物として選ぶ場合には、受け取る方の年代や好みに合わせて提案してくれます。
若い方には今の感覚に合うもの、年配の方には少し違った雰囲気を持つお酒。

一人ひとりに寄り添う姿勢が、店主らしい温かさだと感じました。

健康志向として、日本酒との付き合い方

日本酒は、もともと冷やして飲む文化ではありませんでした。
昔は燗をして楽しむのが一般的で、体を冷やしすぎない飲み方が自然だったそうです。

「どう飲むか」も含めて、無理をせず、自分の体の感覚を大切にする日本酒との付き合い方。そんな視点で選ぶ一本があっても良いのではないでしょうか。

ちなみに私は、寝酒のおちょこ一杯の日本酒を楽しんでいます。

店主が語る「蔵元さんの想い」を聞いて選んだのは、飯沼銘醸の「姿」シリーズ。

購入した「初すがた」は、飯沼銘醸さんのお酒を初めて飲む方にオススメとのこと。口切りから日を追うごとに甘味が増していくのがわかります。

「真っ当な酒」を次の世代へ

お酒には昔から「公序良俗に則った造り方がある」と、店主はいいます。その“真っ当な酒”を次の世代に残したい。だからこそ、今もこの仕事を続けているのだと。

遠州屋さんに陳列されている日本酒の多くは原酒が多く、その理由は「原酒は酒蔵の顔だから」。

お客様が原酒のおいしさを知り、蔵元のファンになって欲しい。お客様も蔵元も、幸せになる関係を大切にしたい。その利他の心こそが、100年以上続いてきた理由なのだと思います。

鶴見で個人の酒屋さんが少しずつ減っていく中で、ぜひ一度、日本酒を通して店主の人生観に触れてみてください。きっとそこには、暮らしと時間を大切にするヒントが静かに息づいています。

時間に委ねて完成していく日本酒という考え方が、私の心に静かに残ります。遠州屋さんの酒選びには、街と人、そして日本酒の歴史が丁寧に重なっていました。

エリア情報

遠州屋酒店

住所:神奈川県横浜市鶴見区佃野町18-4
アクセス:JR京浜東北線、鶴見線「鶴見」駅西口から徒歩約15分、市営バス13番系統綱島駅前行き「佃野」下車徒歩約1分
TEL:045-581-5210
営業時間:火〜日 8:30~20:00
定休日:月曜日
駐車場:無し